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Lovely -50 宿題-

 

 バナナミルクのロリポップキャンディを口内で転がしながら。
 私はひたすら仏頂面の幼なじみの一挙一動をぼんやりと眺めていた。
 眉間に寄せた眉から、不快の色がにじみ出てる。
「……いい加減にしないか?」
「何を?」
 はあ、こちらにも聞こえるように大きなため息を吐いて、天は私を睨み付ける。
「俺が何をしに来たのか、覚えてるのか?」
「ええ。私の受験勉強のために、数学を教えてくれるためでしょう? 知ってるわ。それが何か?」
「……いや、分かってるならいいが」
 それきり、天は黙り込む。
 私の数学の宿題をさらりと解きながら、しばらくしてまた顔を上げる。
「やはり、何かおかしい気がするんだが……」
「そうかしら?」
 惚けて見せる。けれど、さすがに納得できなかったらしい。
「ああ、おかしい。受験勉強は、人に宿題をやらせることなのか?」
 バレタか。
 それでも、天は手を休めることもなく、どんどんと問題を解き進めていく。
 基本的に。この2歳年上の幼なじみは、私に弱い。どんな理不尽なことでも、私が言うと大抵のことはやってくれる。
「天もキャンディ食べる?」
「いらない。砂糖の塊なんぞ、害しかないぞ」
「美味しいのに〜」
 言って、私はソファの上に寝転んだ。
 カタマリが小さくなるにつれて。一気に噛んでしまいたくなるのを堪えながら。
 私は軽く目を閉じた。
 高校生になったら。
 今度こそ、彼氏が欲しい。
 ちゃんとした、子供っぽくないひと。
 2日前までつきあってたカレシのタツヤくんは、天が怖いと言って一週間も経たないうちに逃げてしまったから。
 天は私にはとても優しいけれど。
 私以外の――特に、私に近づく男の子には、容赦ないところがある。
 嫌だとは思わないけれど。それでも時々鬱陶しくなることがある。
 いつまでも子供扱いする、失礼な天が。
 がり
 思わずキャンディを噛み砕いてしまった。
 上半身を起こすと、とっくに問題を解き終えていたらしく、じっと私を見ていた。
「勉強する気になったか?」
 してたまるか。
 思いながら、私はうんとうなずいた。

 天の学校は進学校。
 ようするに、受からなきゃいいんでしょ?
 受けないわけにはいかない理由があるから、受検はするけれど。
 合格なんてしてたまるもんか。
 思いながら、粉々にキャンディを噛み砕いた。

 

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